これから期待される新しい「局的療法と放射線療法」とは
乳がん治療には手術療法、薬物療法、放射線療法を中心に様々な方法があり、より患者の負担が少ない治療法や薬の研究・開発が現在も活発に行われています。なかでも乳房を切開することなくがん細胞を排除できる「局的療法」と、最新機器を使った「放射線療法」の発展に大きな期待を抱いている人は少なくありません。
そこで今回は、代表的な局的療法と放射線療法をピックアップして紹介します。また、いずれも未承認の「実験的な治療」という位置付けです。もしも、治療を検討する機会があった際は、十分な臨床試験と医師の説明をもとに判断しましょう。
局的療法
局的療法とは、がん細胞を排除するためにメスによる乳房の切開を行わない治療の総称です。現在も「乳房部分切除術」など、術後の乳房の形を維持しやすい手術は存在しますが、それでも患者の負担は少なくはありません。
局的療法は様々な方法で、がんを直接取り除くことができるので体力が少ない高齢者でも乳がん治療を受けやすく、さらに日帰り治療が可能になるケースもあるほど入院期間も短期化することが可能です。ただし、前述した通り未承認の治療であり保険も適用外なため、通常の治療よりも高額な費用が必要です。
局的療法1:非切除凍結療法
乳がん凍結療法とも呼ばれる治療で、先端の温度がマイナス170度程度にまでなる金属の針でがん細胞を凍らせて破壊する方法です。凍結には局所麻酔と似たような効果があるので全身麻酔をしなくても痛みが少なく、切除傷もほぼ残らないのがメリットです。
ただし、取り除けるがん細胞の大きさに上限があるほか、リンパ節に転移が認められた場合は治療の実施は困難です。
局的療法2:ラジオ波熱焼灼療法
がん細胞を熱で焼き切って排除する治療法が「ラジオ波熱焼灼療法」です。まだ開発段階で治療費は自己負担であるものの、有効性や安全性について一定基準を満たしたと厚生労働省が認めた80種類の「先進医療」の1つとなっています。また、乳がんだけでなく肝臓がんなどでも用いられることが多いです。
針状の電極をがん細胞に刺し、ラジオ波という電磁波を発生させてがん細胞を排除します。早期がんにおいては体の負担を軽減しつつ高い効果が期待できる治療といえるでしょう。
※出典:厚生労働省「先進医療の概要について」
局的療法3:集束超音波治療
集束超音波治療は、超音波を用いて乳房に針などを刺すことなくがん細胞の排除を図る治療法です。麻酔が不要なうえ放射線被爆もないため、体の負担を最小限に留めることが可能です。MRIで病巣を撮影しつつ、超音波のビームを照射してがん細胞を焼いて排除します。子宮筋腫などでも広く実施されている治療法です。
放射線治療法
放射線によってがん細胞を傷つけて増殖を止めたり、死滅を図る治療法です。放射線治療の進化においては「がん細胞の周囲の正常な細胞を傷つけない」ことと「がんの殺傷効果を増大」という2つのバランスを最適化に着目していることが多いです。
放射線治療法1:粒子線治療
放射線の一種である粒子線を使った治療のことを「粒子線治療」いいます。その代表的な方法の一つが、水素の原子核である「陽子」を加速して生み出す「陽子線」という放射線でがん細胞を攻撃する治療です。体の表面周辺には影響を与えないうえ、一定の深さで停止する直前に放射線を放出するという特性があるため、従来のX線やγ線による治療と比べるとよりがん細胞を集中的に攻撃して死滅させることができます。
また、炭素の原子核を利用した「重粒子線治療」は陽子線治療よりも殺傷効果が高いですが、費用もさらに高額となります。粒子線治療は先進医療として扱われていることもぜひ覚えておいてください。
※出典:国立がん研究センター「放射線治療の種類と方法」
放射線治療法2:強度変調放射線治療(IMRT)
強度変調放射線治療(IMRT)は、高エネルギーのX線を多方向からがん細胞に照射する治療法です。照射中に放射線の強弱を調整できるため、正常な組織を傷つけずがん細胞を攻撃しやすくなり、複雑な形状のがん細胞に合わせた不均一な放射線ビームを変形させながら照射できるので殺傷能力の増大も図れます。
新しい治療方法も早期発見が重要
局的療法、放射線療法に分類される5つの新しい治療方法を紹介しました。いずれも従来の治療よりも体の負担を小さくしつつ、大きな効果が期待できる治療法です。ただ、発見が遅れて腫瘍が大きくなっていたり、転移してしまうと治療そのものが行えなくなってしまいます。乳がんの治療に対して、より多くの選択を選べるようにするには早期発見が必要不可欠です。定期健診やセルフチェックをしっかりと行うことが、最初の一歩だといえるでしょう。