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乳がん手術後のリハビリの開始時期と目的と内容、継続の重要性について

乳がんの手術後、日常生活を無理なく過ごすためには機能回復訓練(リハビリテーション)を適切に行う必要があります。リハビリは理学療法士や作業療法士、医師などのサポートを行うことが一般的で、退院後も日常生活を送りながら継続しなければなりません。そのため、本人の理解と無理なく継続することが重要です。
今回は、乳がんの手術後にリハビリを行う目的と時期などの基本的な情報をまとめて紹介します。

乳がん手術後のリハビリでリンパ浮腫を予防する

乳がんの手術後に行うリハビリの主な目的は、腕や肩が動きにくくなってしまう「リンパ浮腫」の予防です。
リンパ浮腫とは、リンパ液がリンパ管内に溜まってしまった状態のことで、患部がむくんでしまい関節などが動かしにくくなる症状のことです。がん手術によるリンパ線の切除や一部の薬物、放射線治療によってリンパ液の流れが悪くなってしまうことが原因とされており、乳がんの場合は肩や腕に発症することが多く、進行すると日常生活に支障をきたす恐れがあるのです。
また、リンパ浮腫になってしまうと傷口から体内に侵入する細菌に感染しやすくなり、「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」という腕や脚の広範囲に発症する炎症を引き起こす原因になります。
そのため、適切な部位を動かすことでリンパ液が溜まってしまうことを防ぎ、リンパ浮腫の発症を予防する必要があるというわけです。

乳がん手術の翌日からリハビリがスタート

乳がんの手術後のリハビリは「無理をしない」ことが鉄則です。そのうえで、手術の翌日からスタートすることが一般的です。リハビリの期間は体の状態によって異なりますが、3カ月以上継続して行うことで手術から半年後もリンパ浮腫が増加せず、腕や肩が動かしやすくなるとされています。無理のない範囲で、継続的にリハビリすることが重要といえるでしょう。

リハビリの内容はおおまかに、手術後~1週間、1週間~10日後で異なります。

手術後~1週間程度の時期は、手のひらの開閉(グーパー運動)や手首と肘を内側と外側に交互に回すといった簡単な動作からスタートします。

ほかにも座ったまま肘を曲げたり、柔らかいボールを握るなど、手と肘を中心に運動を始めましょう。手術の傷口の痛みなどに合わせて、無理のない範囲で行いましょう。特にリンパ液を排出するための「ドレーン」が体内にある場合は、過度に体を動かすとかえってリンパ節を切除した部分に体液が溜まりやすくなってしまうので注意が必要です。

1週間~10日後からは本格的なリハビリを始めます。その一例を以下で紹介します。

■乳がんの手術後1週間経過時のリハビリ運動1

1.背中をまっすぐに伸ばして腰に両手を添える
2.腰に添えた手を肩に置く

■乳がんの手術後1週間経過時のリハビリ運動2

1.両手を肩の高さで地面と平行に広げる
2.「1」の手を腹の前で、肘を曲げずに交差させる

これらの運動を最初は5回程度から始め、体の状態に合わせて最終的には1セット20回程度。1日に2~3回行いましょう。
さらに術後2週間目以降は、体力や傷口の回復に応じ、ストレッチや筋力トレーニングなどを取り入れて最適なリハビリを継続することが大切です。

■乳がんの手術後2週間経過時のリハビリ運動

1.壁に向かって立ち、背中をまっすぐに伸ばして腰に手を添える
2.壁に沿って指先を動かして、可能な限り上まで伸ばし、限界の場所にシールなどを貼り目安とする
3.壁に対して横向きになり、左右の腕で交互に1~2の運動を行う

入浴後は同じ運動でもリハビリの効果が高いので、入浴が許可されたら体が温まっている状態で行ってみましょう。

日常生活にリハビリを取り入れる

継続的にリハビリを行うために有効なのが、日常生活のリハビリを意識した動作を取り入れることです。例えば「背中のファスナーの上げ下げ」や「お風呂で背中を洗う」といった動きはリハビリとしても有効です。そのほか「洗濯物を干す」、「髪をとかす」、「タオルを絞る」といった動きも普段の生活で習慣にできれば、精神的な負担を軽減しつつリハビリを長期間継続することができるでしょう。ただし、筋肉痛や関節などに痛みが残る運動は負荷がかかりすぎている可能性が高いです。その際は該当する運動の習慣化を見直す必要があります。

リンパ浮腫の治療

リンパ浮腫が発症した場合、できるだけ早く専門のリンパ浮腫外来を受診して適切な治療を受けなければなりません。リンパ浮腫の治療法としては、医療的なマッサージ「用手的リンパドレナージ」やむくみによって、皮膚が薄くなってしまう状態を改善する「スキンケア」などが挙げられます。また、「弾性着衣」や「弾性包帯」など体を圧迫した状態で運動する「圧迫療法」も効果的とされており、複数の治療法を組み合わせて改善を図ることが一般的です。
さらに体の状態によっては、リンパ管と静脈をつなぐことでリンパ液を静脈に流して滞留を解消するなど、手術によってリンパ浮腫を治療する方法もあります。ただし、必ずしも症状が改善する訳ではなく、体の状態によっては手術できないケースもあります。
いずれにしてもリンパ浮腫は進行が早いので、手術後に体の不調を感じた場合は迅速に担当医に相談しましょう。

無理なく継続的に乳がんのリハビリを行いましょう

乳がんの手術後のリハビリの必要性について紹介しました。リハビリが乳がん手術の翌日から始まることを意外と早いと感じた人も多いのではないでしょうか。リンパ浮腫の予防などにつながる大切な役割を担っているので、無理なく継続的に行うことが大切です。専門家の指導やメニューはもちろん、退院後の日常生活にもリハビリを取り入れることで自身の手による治療後のQOL(クオリティオブライフ)の向上を図りましょう。