乳がんに「なりやすい人」はいるの?遺伝・女性ホルモン・生活習慣などの9つの危険因子とは
統計上、全国の女性の2人に1人が生涯で診断されるのが、がんであり、そのなかでも最も罹患者数が多いのが「乳がん」です。誰もが当事者になる可能性がある乳がんですが、その直接的な原因は未だ解明はされていません。一方、長年の調査によって徐々に遺伝や年齢、生活習慣といった乳がんになりやすくなる「9つの危険因子」が明らかになりつつあります。
今回は、厚生労働省などの資料・データをもとに乳がんになりやすい人の特徴を紹介します。もちろん、紹介する情報に当てはまる人が必ず乳がんになるわけではなく、当てはまらない人が乳がんにならないわけではありません。ただ、自身の乳がんのリスクを考えるうえでとても参考になる情報なのでぜひ確認してみてください。
乳がんの危険因子
厚生労働省の「がん検診推進事業について」によると、統計調査によって乳がんには9つの危険因子があると明示されています。まずはその概要を確認してみましょう。
乳がんの9つの危険因子
乳がんの危険因子は以下の通りです。
1.年齢(40歳以上)
2.未婚の人
3.高齢初産の人、もしくは出産していない人
4.初潮が早く、閉経が遅い人
5.肥満の人(閉経後)
6.血縁者に乳がんになった人がいる
7.良性の乳腺疾患になった人がいる
8.乳がんになったことがある
9.閉経後ホルモン補充療法、経口避妊薬使用経験がある
9つ目の「閉経後のホルモン補充療法・経口避妊薬使用経験」は欧米では危険因子とされているものの、日本においてはまだ関連性がはっきりとしていないことも覚えておきましょう。
※出典:厚生労働省「がん検診推進事業について」
乳がんの増殖と深く関わる女性ホルモン「エストロゲン」
乳がんの発生や増殖には、女性ホルモンの一種である「エストロゲン」が深く関わっていることが明らかになっています。卵胞から分泌されるエストロゲンは、本来、子宮内膜を厚くして妊娠に備えるほか、乳房の発育などの女性らしい体をつくる役割を担います。
一方、がん細胞の成長・増殖においても機能し、乳がんの約70%はエストロゲンの働きで成長するとされています。
前述した危険因子によってエストロゲンが過剰分泌につながるほか、その影響を受ける期間の長期化といった関連性があることもぜひ覚えておいてください。
※出典:がん情報センター「乳がん 予防・検診」
乳がんの罹患者数が増加しているのは危険因子に該当する女性が増えているから?
現在、女性における代表的ながんとなっている乳がんですが、過去を遡ると日本の罹患者数や死亡者数は今ほど多くなく、欧米の女性がなりやすい病気と考えられていました。実際、がん情報サービスによると2000年代初頭の乳がんの罹患者数(診断された数)は40,000人台でしたが、2019年には97,812人と倍増しています。死亡数も1975年は5,000人を下回っていたものの、現在は14,779人と大きく増加していることが明らかになっています。
この原因については多くの要素が考えられますが、女性の社会進出や晩婚化、食生活の変化によって前述した「危険因子」に該当する人が増加したことが一因として挙げられます。
例えば、厚生労働省の人口動態調査によると女性の平均初婚率は1982年は24.4歳でしたが、2022年は29.7歳と5歳以上遅くなっています。さらに第一子の平均出生年齢は1975年時は25.6歳である一方、2022年になると30.5%であることが明らかになっています。さらに未婚率の増大も社会問題として取り沙汰されることも珍しくありません。このように危険因子の2・3に当てはまる人が増え、エストロゲンにさらされる期間が伸びていることが乳がんを発症するリスクの増大につながっていることが考えられます。
さらに1975年代以前と比べると、食生活や栄養状態などの環境が改善されたため、初潮が早く、閉経が遅くなる傾向が強まっていることも、乳がんの罹患者数が増えた原因につながると考えられるでしょう。
※出典:内閣府「生涯未婚率と初婚年齢」
※出典:国立社会保障・人口問題研究所「出生順位別平均出生年齢:1955~2004年」
乳がんの予防は生活習慣と定期検診から始めましょう
乳がんの危険因子はさまざまですが、「遺伝によるがん」はがん全体の約5%程度とされています。そのため、前述した結婚や出産といった社会的な環境の要因と同じく、すぐに予防につながる行動をするのは難しいでしょう。だからこそ、まずは個人で改善しやすい生活習慣の改善に取り組むことが推奨されているのです。反面、たばこやお酒を嗜まず、適度な運動をしていたとしても乳がんリスクを低減できても、ゼロにできるわけではありません。
そこで必要なのが乳がん検診です。乳がん検診で問診、視触診、マンモグラフィ検査(40歳以上)を適宜、受診することで乳がんを早期発見・早期治療できれば5年生存率を大きく向上させることが可能です。
まずは危険因子を確認して自身がどれだけ当てはまるか確認して乳がんに対する関心を高めた後、生活習慣の改善と定期検診を正しく行うことをおすすめします。