「手術療法」、「薬物療法」、「放射線療法」。乳がんの代表的な治療法
乳がんの治療は、がんのステージやひろがりによって「手術療法」、「薬物療法」、「放射線療法」の3種類のいずれか、もしくは複数を組み合わせて行います。医学用語で「集学的治療」とされる基本的な考え方ですが、日常生活ではその内容について知る機会は多くありません。
そこで今回は、3種類の乳がんの代表的な治療法の特徴についてまとめました。体への負担や予後のほか、術後の乳房が残るのかといった美容的なポイントが気になる人は、ぜひ確認してみてください。
乳がんの治療法1:手術療法
手術療法は、乳房に発生したがん細胞を直接切除する「局所療法」の代表的な手法です。手術療法は、がん細胞と周辺の組織から1~2cmを広めに切除する「乳房部分切除術」と、乳房全てを切除する「乳房切除術」の2種類に大別できます。それぞれの特徴をチェックしてみましょう。
◇乳房部分切除術
乳房部分切除術は「乳房温存手術」とも呼ばれる手術療法で、後述する乳房切除術と比べると術後の乳房の形を維持しやすく美容的なデメリットが少ないことが特長です。また、術後の放射線治療と組み合わせて行うことが一般的です。
乳房部分切除術は一定の条件を満たす場合に行われ、その主な条件は以下のとおりです。
■乳房部分切除術の適応条件
- ・がんのひろがりが3~4cm以下であること
- ・病期(ステージ)が0~ⅡA期であること
- ・多発性のがんではないこと
- ・妊娠中でないこと
- ・放射線治療で強い副作用が出る可能性がないこと
※関連ページ:乳がんの病期(ステージ)について。早期発見が重要な理由
患者さんが乳房部分切除を受けられるかは、がんのひろがりが小さく、ステージも早い段階であることが重要なことが上記の条件から読み取れます。また、乳房部分切除術は「患者が満足できる形状の乳房を残す」ことが主な目的なので、本人の意思や希望も選択するうえで大切なポイントになります。
また、乳房部分切除術は温存した乳房に新しい乳がんができる「温存乳房内再発」の可能性があります。そのため治療はMRIや超音波検査、検査目的の腫瘍摘出術などを行った後「乳房円状部分切除術」もしくはより切除範囲の広い「乳房扇状切除術」を実施します。その後も病理検査の結果次第では、乳房切除術に切り替えなければならないケースがあることも覚えておきましょう。
◇乳房切除術
乳房すべてを切除する手術法です。乳房をすべて切除するため、乳房内の乳がんの再発リスクをゼロにできます。乳房切除術を行える条件を以下で確認してください。
■乳房切除術の適応条件
- ・初発のがんである
- ・がんの大きさが3~4cm以上
- ・病期がⅢAまで
- ・浸食がんが広範囲に多発している(病期ⅡA以下も含む)
- ・乳房内で広範囲にひろがっている非浸食がん
乳房切除術は乳房を「全摘」する手術ですが、その後に失った乳房を再建する「乳房再建手術」を行うこともできます。この場合、皮膚だけを残して乳腺をすべて切除する「皮膚温存乳房切除術」または、乳輪も残す「乳頭温存乳房切除術」を実施します。
乳がんの治療法2:薬物療法
薬物療法の目的は様々ですが、手術療法・放射線療法ががん細胞を狙い撃ちする「局所治療」に対し、薬物療法は全身に広がったがんを治療する「全身治療」として行うことが一般的です。
ちなみに他の薬物療法の目的としては「再発・転移予防」、「初期のがんの根絶」、「術後に残存しているがんの根絶」などが挙げられます。今回はそれぞれで用いられる3種類の代表的な薬物療法について紹介します。
◇化学療法
トポイソメラーゼⅠ阻害薬、アルキル化薬といった「抗がん剤」によってがん細胞を攻撃して死滅させることを目的とした薬物療法です。複数種類の抗がん剤を同時に使うことが一般的で、通常は注射ですが経口で投与するケースもあります。
抗がん剤は正常細胞も攻撃するので、特に細胞の増殖が活発な髪の毛や消化管、骨髄などにも悪影響を与え、吐き気や脱毛、貧血といった様々な副作用を伴うリスクがあります。
◇ホルモン療法
乳がんと女性ホルモン(エストロゲン)は深い関わりがあり、エストロゲンの刺激により乳がんの増殖が活発する性質があるものが存在すると考えられています。そのエストロゲンとがん細胞内の受容体との結合を阻害するほか、エストロゲンがつくられないようにする薬を用いることが「ホルモン療法」です。
抗エストロゲン薬・アロマターゼ阻害薬を5~10年程度、使用し続けることが一般的ですが、その期間や種類などは閉経前後で異なります。抗がん剤治療と比べると副作用が軽いものの、長期使用による子宮がんや骨粗鬆症などのリスクが高まるとされています。
◇分子標的治療
抗がん剤治療の一種で、特にがん細胞に顕著にみられる「分子」をターゲットに攻撃する薬を用いる治療のことを「分子標的治療」といいます。
乳がんの治療法3:放射線治療
一般的に放射線治療は手術療法や薬物療法と組み合わせて行います。がん細胞に強力は放射線を照射することで、がん細胞のDNAを傷つけて増殖を止めたり、死滅を図る治療です。乳がん治療においては特に部分乳房切除術と組み合わせることが多く、温存した乳房やリンパ節からの再発を防止するために行われています。
また、全摘手術においても再発リスクの高い患者に対して放射線治療を行ったところ、局所再発率、生存率ともに向上していることが明らかになっています。
早期発見、早期治療が乳がん治療の基本
乳がん治療の代表的な3種類について解説しました。どの方法もメリット・デメリットがありますが、早めに発見して治療を行うことで美容や体への負担が少なく、根治の早期化が図れます。定期検診やセルフチェックなどを行うことで、乳がんをなるべく早く見つけることが健康な体をいち早く取り戻す基本となるでしょう。