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乳がんの代表的な関連疾患「乳腺症」「線維腺腫」「葉状腫瘍」はがんではないの?

乳がんは女性にとって意識すべき病気であるからこそ、乳房のしこりや違和感があると「乳がんなのでは」と不安になってしまう方は少なくありません。当然、乳房周辺の違和感などが全て乳がんというわけではなく、治療が必要ない疾患も存在します。一方、悪性の場合は手術しなければならない疾患もあるため、違和感があった際は迅速な検査が求められるケースもあります。今回は、国立がん研究センターが運営する「がん情報サービス」に挙げられている「乳腺症」「線維腺腫」「葉状腫瘍」の3つの代表的な乳がんの関連疾患について解説します。

※出典:国立がん研究センター がん情報サービス「乳がんについて」

基本的に治療は不要な「乳腺症」

35歳前後の成熟期の女性に多くみられるのが「乳腺症」です。乳腺症になると、乳房の表面がデコボコするほか、痛みや乳頭から透明・ミルク様のような分泌物が生じるといった症状が現れます。乳腺症と乳がんの関係性は明らかになっていませんが、現在は乳腺症が原因で乳がんになることはないとされています。

というのも、乳腺症はエストロゲンという女性ホルモンのバランスが崩れてしまって起こるいくつもの「良性の疾患」の総称だからです。少し曖昧なイメージであるが故に患者さんをいたずらに不安にさせるとして、最近では乳腺症を月経などの生理的変化に伴う「正常とは違った変化」と捉え、病気ではないという説明をするケースも増えています。

乳腺症は良性とはいえ、張りやしこり、乳頭から分泌物などは乳がんの症状と重なるため、自覚症状があればなるべく早く乳腺科で検査を受けてください。通常は乳がんと同じ手順で検査を行い、触診やレントゲン、エコーなどで乳腺症と鑑別します。それでも難しい場合は組織検査(などを行うケースもあります。乳腺症と診断されたのであれば、基本的に治療は不要で経過観察となります。乳腺症の痛みには個人差があり、激しい場合はホルモンの分泌を抑止する薬物療法を行います。ただ、「がんではない」と説明を受けただけで心理的負担が軽くなり、痛みも和らぐケースは少なくありません。

※関連記事:乳がんの病理検査「細胞診」と「組織診」の検査方法とは

若年層にも見られる良性腫瘍「乳腺線維腺腫」

腫瘍とは異常増殖した細胞がかたまりになった「腫物=しこり」のことであり、そのうち乳腺や乳房にできるものを「乳腺(乳房)線維腺腫」といいます。細胞の異常生殖というと、がんをイメージする人は少ないですが、乳腺線維腺腫は基本的に良性の腫瘍であり、悪性の細胞がかたまりには見られないことを覚えておきましょう。

乳腺線維腺腫は特に10~20代でよく見られます。悪性の腫瘍であれば放置しておくと、3cm以上に肥大化して転移するリスクが高まります。一方、乳腺線維腺腫は2~3cm程度に止まるケースが一般的であり、転移するリスクもありません。

■良性腫瘍

増殖が緩やかで、転移することがなく、臓器や生命に重大な影響を及ぼすことのない腫瘍です。

※出典:がん情報サービス用語集「良性腫瘍」

乳腺症とは異なり基本的に痛みはなく、胸を触るとコロコロと動くしこりを感じることが多いのも特徴です。発症のメカニズムは明らかになっていませんが、乳腺症と同じく女性ホルモンが関係していると考えられています。そのため、女性ホルモンが活発に分泌される若年層〜成熟期に発症する確率が高くなる一方、閉経後には乳腺線維腺腫が小さくなり、最後には消失することが一般的です。

上記の理由から乳腺線維腺腫と診断されたとしても、基本的には経過観察のみで特別な治療は必要ではありません。ただ、後述する悪性疾患「葉状腫瘍」である可能性もあるため、セルフチェックでしこりを見つけたのであれば検査を受けてください。

良性・境界病変・悪性に分類可能。注意が必要な「葉状腫瘍」

乳がんと同じく、乳房にできる悪性腫瘍である可能性があるのが「葉状腫瘍」です。葉状腫瘍は良性、悪性とその間である境界病変の3種類に分類でき、このうち悪性に分類されたものを「悪性葉状腫瘍」といいます。乳がんと葉状腫瘍の違いは、増殖する細胞と腫瘍化した組織の場所です。乳がんは主に乳房の「上皮細胞」が増殖してがん化するのに対し、葉状腫瘍は間質細胞・結合織が混ざりあって腫瘍になります。

国立がん研究センターの希少がんセンターによると、葉状腫瘍は乳房にできる腫瘍のうち、10%未満であり、さらに悪性葉状腫瘍はその30%以下。女性100万人に対して2.1人が発症するというデータからも、乳がんと比べると非常に珍しい「希少がん」に数えられています。

■希少がん

人口10万人あたり6例未満のがんの総称。数が少ないがゆえに診療・受療上の課題が他に比べて大きいとされている。現在、200種類近い悪性腫瘍が希少がんに分類されている。

※出典:国立がん研究センター希少がんセンター「さまざまな希少がんの解説

葉状腫瘍の基本的な治療は外科的切除であり、乳房部分切除もしくは乳房切除が推奨されています。乳がんとの大きな違いは、乳がんでは治療法の一つとして確立しているホルモン療法が推奨されていないことが挙げられます。良性・境界病変の葉状腫瘍であれば、手術のみで治癒できる可能性が高い一方、悪性の局所再発率は10~40%とされており、生存率は5年で91%、10・15年で89%です。

※出典:国立がん研究センター希少がんセンター「乳腺悪性葉状腫瘍(にゅうせんあくせいようじょうしゅよう)

乳がん関連疾患も定期的な検診が大切

乳がん関連疾患と診断を受けた後も、定期的にしこりの肥大化など検診することで悪性化などを迅速に発見、治療につなげることが可能です。多くは乳がんの定期検診でも対応可能なので、適切な頻度で乳がんの定期検診を行いましょう。