乳がんの「標準治療」と「最先端治療」の違いってなに?メリット・デメリットと確認すべきガイドライン
乳がんの治療は、がんのステージや転移の状況によって「集学的療法」の観点から適した方法を提示され、患者が選択することが基本的な流れとなります。具体的には、手術療法、薬物療法、放射線療法の3つのいずれかに該当する治療を行いますが、他にも「標準療法」と「最先端治療」の観点で治療方法をカテゴライズすることもできます。
今回は、乳がんにおける「標準療法」と「最先端治療」の違いと具体例のほか、参考にすべき診療ガイドラインについて解説します。両者の違いとメリット・デメリットを正しく理解し、自身にとって最適な治療方法を選択してください。
乳がんにおける「標準治療」とは
標準治療は、科学的根拠に基づいて「現在利用できる最良の治療」と位置づけられ、多くの患者に対して行うべき治療のことを指します。標準治療とされるためには、膨大な研究結果で裏付けされた根拠(エビデンス)が必要であり、基礎研究から臨床試験にかけて10年以上の歳月がかかることも珍しくありません。さらに世界規模で合計数千人に及ぶ対象に、数十億円単位の資金を投じて得られるエビデンスを提示し、多くの専門家が有効性・安全性が信頼できると合意(コンセンサス)した治療方法です。
乳がんの標準治療の具体例
手術療法、薬物療法、放射線療法の「がんの3大治療」とも呼ばれる治療法は、いずれも標準治療に該当します。
■手術療法
乳房に発生したがん細胞を手術して直接切除する治療法。がん細胞の周辺組織を切除する「乳房部分切除術」と「乳房切除術」の2種類に分けられる。
■薬物療法
薬物を投与し、全身に広がったがんを治療する方法。再発や移転予防、初期のがんの対処、術後の残存がんの根絶などを目的に行われる。投与する薬物の種類により、化学療法、ホルモン療法、分子標的治療などに細分化される。
■放射線療法
がん細胞に強力な放射線を照射し、がん細胞を死滅や増殖防止を図る治療。部分乳房切除治療などの手術療法のほか、薬物療法とも組み合わせて行うことが一般的。
※関連記事:「手術療法」、「薬物療法」、「放射線療法」。乳がんの代表的な治療法
一般的な治療としては、一人ひとりの乳がんのステージや性質、治療に対する考え方を含めた患者の状態を鑑みた内容の標準治療が提案されるという認識で間違いありません。しばしば混同されますが、標準治療は「一般的に広く採用されている」のではなく「推奨される治療」であり、後述する最先端治療と比較して治療の効果や副作用などが劣っているというわけではないことに留意して向き合う必要があるでしょう。
※出典:がん情報サービス「標準治療」
乳がんの「最先端治療」の概要とメリット・デメリット
一般的な最先端治療とは、標準治療ではない(=推奨されるためには十分な根拠がない)治療をまとめた言葉です。乳がんにおいては、ほとんどの「免疫療法」や「光免疫療法」などが該当しています。最先端治療のメリットは、標準治療では得らない効果や副作用の少なさが”期待できる”一方、その根拠となる研究の内容や結果が不十分であるほか、サンプル数が少なく、さらに十分に公開されていないケースがほとんどだと認識しておく必要があるでしょう。
最先端治療も十分に根拠を提示し、合意を得られると標準治療として認められるケースもあります。そのため「最先端治療の方が標準治療よりも優れている」のではなく、まだ効果が不明瞭な治療であると覚えておきましょう。そのうえで多額の費用を支払ってでも受ける価値があると判断した人が、最先端治療を受けることもあります。
先進医療と最先端治療
最先端治療としばしば混同されるのが「先進医療」です。先進医療は、高度な医療技術を用いた治療法・療養のうち、有効性や安全性が評価されているとして厚生労働省が認めた治療を指します。標準治療外でありながら、根拠の点で最先端治療とは一線を画すものの、がんの重粒子線治療や陽子線治療には300万円を超える費用が必要で、治療を受けられる医療機関も限られます。
自身の乳がん治療と向き合うために「乳がん診察ガイドライン」を活用しましょう
乳がんの症状や受け止め方、そして治療法は人それぞれです。最善の治療である「標準治療」を基軸に据えて納得できる方法を選択すべきですが、マスメディアやSNSで根拠が不明な最先端治療など含めた様々な情報が氾濫している昨今、ただでさえ乳がんの診断結果を目の当たりにして混乱している状況で、正しい情報を取捨選択するのが困難になるのも珍しくありません。
そこで活用していただきたいのが、日本乳癌学会が制作・公開している「患者さんのための乳がん診察ガイドライン」です。同ガイドラインではQ&A形式で検診・診断の進め方から診断後、そして治療後、がん予防まで幅広いカテゴリで正しく判断する指針がまとめられています。ご自身はもちろん、家族などの周囲の人とも情報共有しながら、これらの公的な情報をしっかりと集めることが最適な治療を選択する重要なポイントになるでしょう。
※出典:日本乳癌学会「患者さんのための乳がん診察ガイドライン2023」