喫煙で高まる乳がんのリスク。たばこと乳がんの関連性と禁煙の必要性
たばこは脳卒中や結核、歯周病など、健康に悪影響を及ぼすことが明らかになっています。がんにも例外ではなく、国立がん研究センターが運用する「がん情報サービス」によると、咽頭がんや食道がん、肺がんなど10種類にも及ぶリスクが高まることが、科学的に因果関係が明らかになっていると明示されています。
乳がんにおいて因果関係は科学的に証明されてはいないものの、たばこを吸う女性や受動喫煙によってリスクが高まる結果が出ている調査もあります。今回は、乳がんとたばこの関連性と禁煙の必要性について解説します。
※出典:がん情報サービス「たばことがん」
喫煙・タバコと乳がんリスクの関連性に確証はない
2025年現在、喫煙・タバコと乳がんの発症については、肺がんなどと比べると明確な関連性は明らかになっていません。例えば、国立がん研究センターでは、喫煙と本人がなりやすいがんの因果関係を1~4のレベルに区分しています。そのなかで最も因果関係が明らかだとされているレベル1の段階に乳がんは該当していないのです。本題に入る前に、レベル1のがんの一覧を確認してみましょう。
■喫煙との因果関係が科学的に明らかな、がんの種類
1.鼻腔・副鼻腔がん
2.口腔・咽頭がん
3.喉頭がん
4.食道がん
5.肺がん
6.肝臓がん
7.胃がん
8.膵臓がん
9.子宮頸がん
10.膀胱がん
ちなみに、乳がんは「科学的証拠は、因果関係を示唆しているが十分ではない」であるレベル2にカテゴライズされています。このように世界的にも乳がんと喫煙の因果関係は科学的には立証されていないものの、関係性の調査は幾度も行われていて「タバコを吸う女性は乳がんになりやすい」という結果が出ているものもあります。その調査内容を確認してみましょう。
※出典:国立がん研究センター「喫煙と健康」
タバコを吸う女性は乳がんになりやすい
2010年、喫煙・受動喫煙と乳がん発生率との関係について「多目的コホート研究(JPHC研究)」によって調べた結果がInternational Journal of Cancerにて掲載されました。同調査では1990年に日本の四地域に居住する40~59歳の女性約2万人を10年間、追跡して喫煙及び受動喫煙と乳がんの発生率を調べたもので「タバコを吸う女性は乳がんになりやすい」と結果が出たとしています。詳細を確認してみましょう。
同調査の対象者2万1,865人のうち、180人の女性が追跡期間中にがんになっています。さらに調査対象を以下のグループに区別し、それぞれのリスクを比較して算出しました。
1.たばこを吸ったことのない、かつ受動喫煙もない
2.喫煙はしないが受動喫煙する生活環境である
3.過去に喫煙をしていた
4.現在も喫煙している
喫煙歴も受動喫煙もない「1」のグループのリスクを1と設定すると、現在も喫煙しているグループである「4」は約90%も高い、1.9倍もリスクが高いことが明らかになったのです。さらに「2」は1.1倍、「3」は1.2倍といずれも生活環境で喫煙(者)と関わりがないグループと比べるとリスクが増大していることが分かりました。
また、喫煙歴のある女性のうち閉経前にタバコを吸っていたグループは、喫煙も受動喫煙もしない人と比べると3.9倍と顕著にリスクが増大することも明らかになっています。受動喫煙についても家庭・職場で受動喫煙している環境にある閉経前の女性は、受動喫煙の環境にないグループと比べると乳がんの発症リスクは2.6倍となっています。
このように特に閉経前の女性の喫煙においては、乳がんの発症リスクが高まる可能性を示唆する結果が出た一方、閉経後の女性の乳がんのリスクについてはこの調査では大きな差異はありませんでした。
※出典:国立がん研究センター「多目的コホート研究(JPHC Study)」
閉経前の乳がんのリスクを上げる可能性がある
国立がん研究センターでは、先ほど紹介した調査よりも新しい論文を2024年6月号の「International Journal of Epidemiology誌」に掲載しています。同研究は、8~22年間の追跡した複数のコホート研究を再解析する「プール解析」で、計16万6,611人が対象になっています。
詳しい調査方法は省きますが、結果としては「現在も喫煙している女性は喫煙未経験の女性より50歳以前に乳がんを発症するリスクが高まる」ほか「30歳以前または初産前に喫煙を始めた女性は50歳以前に乳がんを発症するリスクが高まる」ことが示唆されています。
※出典:国立がん研究センター「科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」
がんだけでない、喫煙・タバコのリスクを知ろう
乳がんと喫煙・タバコのリスクについて解説しました。科学的に関連性を示唆する調査結果はいくつもあります。また、喫煙・タバコはがんだけでなく、早産や低出生体重・胎児発育遅延といった数々の疾患において「レベル1」とされています。いずれにしても、特に若年時の喫煙は大きなリスクを伴うことを理解しておきましょう。