子宮頸がんの「HPVウイルスキャッチアップ接種」は25年3月まで!低迷する接種率と積極的推奨を再開した理由
日本で年間3,000人が死亡している子宮頸がん(マザーキラー)の罹患リスクを低減するために重要なのが「HPVワクチン」の接種です。HPVワクチンの接種に伴う副作用などに対する過度な報道などにより、積極的な接種が推奨されない時期があったものの、近年ではその必要性が見直されています。
このような背景があり、国では「HPVワクチン接種」を公費で完了できる制度が2025年3月まで設けられています。そこで今回は、同制度を紹介するとともに国がHPVワクチン接種の推奨を再開した理由などを解説します。
HPVワクチンキャッチアップ接種とは
HPVワクチンとは、子宮頸がんの原因となる「HPV(ヒトパピローマウイルス)」の感染リスクを低減するために接種します。HPVウイルスは、性交渉経験がある女性の50%以上が感染する可能性があるなど、決して特殊なウイルスではありません。また、通常は自然消滅しますが、数年~数十年かけて長期的に残り続けてしまうことで子宮頸がんに進行してしまうのです。
HPVワクチンは、初めての性交渉よりも前に接種することで効果を最大化できると考えられており、日本では2013年から「定期接種」の対象になり、公費負担で10代の女性が接種できる環境が整えられています。ただ、冒頭で述べたように定期接種を開始した直後から、副作用による「多様な症状」がマスメディアによって過度にクローズアップされた影響などにより、たった数ヶ月で自治体による推奨がほとんど行われてこなかったのです。
その推奨されていなかった期間に定期接種できなかった女性を対象として、あらためてHPVワクチンを接種して子宮頸がんの死亡率、発症率の低減を図るために設けられたのが「HPVワクチンキャッチアップ接種」なのです。
※関連記事「子宮頸がんワクチンの接種が日本で遅れている理由。正しい情報を入手するために」
まだ間に合う!HPVワクチンキャッチアップ接種の条件・概要
HPVワクチンには「2価ワクチン(サーバリックス)」、「4価ワクチン(ガーダシル)」、「9価ワクチン(シルガード9)」の3種類があります。いずれも初回接種から1カ月後、6カ月後と計3回接種しなければなりません。HPVワクチンキャッチアップ接種の対象になっている女性は「2025年3月末まで1回以上接種」していれば、残りの回数分も2026年3月末まで公費で接種することが可能です。
※引用:厚生労働省「HPVワクチンの接種を逃した方に接種の機会をご提供します」
以下の対象者でまだHPVワクチンを接種していない方は、記事公開時点でも間に合うのでまずは一度接種することを検討してください。
■HPVワクチンキャッチアップ接種の対象者
1.平成9年度生まれ~平成19年度生まれ(誕生日が1997年4月2日~2008年4月1日)の女性 2.過去にHPVワクチンの接種を合計3回受けていない |
接種方法は各自治体で異なるため、住民票のある市町村からのお知らせを確認するか問い合わせてみましょう。
大人になってHPVワクチンを接種しても意味があるの?
HPVワクチンキャッチアップ接種の対象者は28歳(平成9年度生まれ)となります。原則的に初性交渉前の接種が望ましいとされていますが、厚生労働省は最も効果が高い16歳頃以降に接種しても一定の有効性があると明示しています。そのような背景もありHPVワクチンキャッチアップ接種は2024年の夏以降、大幅に需要が増加したため、2025年3月末までに接種を開始した方が、全3回の接種を公費で完了できるようになりました。
HPVワクチンは安全?推奨を再開した理由とは
HPVワクチンを接種すると、接種部位の痛み、腫れ、赤みなどが起こる可能性があります。また、より広い範囲の痛みや不随意運動といった従来報告された多様な症状が起こる可能性もゼロではありません。
一方、厚生労働省の審議会では、基本的に毎月「厚生科学審議会 予防接種・ワクチン分科会」という専門家による会議を設けて、報告された症状をもとにワクチンの安全性を継続して確認しています。
発生頻度 | 2価ワクチン | 4価ワクチン | 9価ワクチン |
50%以上 | 疼痛、発赤、腫脹、疲労 | 疼痛 | 疼痛 |
10~50%未満 | 掻痒(かゆみ)、腹痛、筋痛、関節痛、頭痛など | 紅斑、腫脹 | 腫脹、紅斑、頭痛 |
1~10%未満 | じんましん、めまい、発熱など | 頭痛、そう痒感、発熱 | 浮動性めまい、悪心、下痢、そう痒感、発熱、疲労、内出血など |
1%未満 | 知覚異常、感覚鈍麻、全身の脱力 | 下痢、腹痛、四肢痛、筋骨格硬直、硬結、出血、不快感、倦怠感など | 嘔吐、腹痛、筋肉痛、関節痛、出血、血腫、倦怠感、硬結など |
頻度不明 | 四肢痛、失神、リンパ節症など | 失神、嘔吐、関節痛、筋肉痛、疲労など | 感覚鈍麻、失神、四肢痛など |
※出典:厚生労働省「HPVワクチンについて知ってください」
※出典:厚生労働省「ヒトパピローマウイルス感染症~子宮頸がん(子宮けいがん)とHPVワクチン~」
このようなリスクも考慮しなければならない一方、世界130カ国以上で公的接種されており、カナダ・オーストラリアといった先進国では接種率は80%以上となっています。日本はHPVに起因する子宮頸がんの発生率は全調査国中87位、G7では最下位と非常に低い結果になっているおり、死者数も特筆して多いことは「接種しないことによるリスク」も接種によるリスク以上に考えなければなりません。
HPVワクチン接種と検診で自身の体を守りましょう
厚生労働省ではHPVワクチン接種による感染に加えて、定期的な子宮頸がん検診を受けることでリスクを低減することを推奨しています。20歳を超えたらワクチン接種の有無を問わず、定期的に子宮頸がん検診を受診しましょう。