術後補助療法は乳がんでも行われるの?治療内容と再発防止効果の実際とは
2024年3月、英国のキャサリン妃は自身ががんを患っていることと「予防化学療法」を受けていることを明らかにして大きな話題になりました。その約半年後の9月には化学療法を完了したというニュースも報じられ、手術後に行われる「予防化学療法」に注目が集まりました。
このニュースが拡散された際、手術後の治療にも関わらず「”予防”化学療法」という呼称に少し混乱した方もいるのではないでしょうか。実は、予防化学療法は正式な医学用語では「補助療法」といいます。キャサリン妃が受けた予防化学療法は正式には「術後補助化学療法」であり、がんの再発・転移を予防するために行われました。今回は、術後補助療法の基礎知識と乳がん治療との関連性について解説しましょう。
術後補助療法の前提知識
術後補助療法とは、がんの再発・転移のリスクを低減させるために行われる治療のことです。術後薬物療法について説明する前に、いくつかの前提知識を解説しましょう。
術後補助療法は主に薬物療法や放射線治療が行われます。また、キャサリン妃が受けた化学療法は薬物療法に分類されるがん治療の一種であり、主に抗がん剤を用いる治療について呼称されます。薬物療法には分子標的療法やホルモン療法などがあり、がんの状況によって複数の薬を組み合わせて治療するケースも少なくありません。そのため、この記事では「補助薬物療法」の観点から解説します。
薬物療法と化学療法の詳細については以下の記事で詳しく説明しているので、ぜひチェックしてみてください。
関連記事:薬物療法の3分類。化学療法、ホルモン療法、分子標的治療の目的と副作用
次に、乳がん治療の大まかな流れを確認しましょう。一般的には以下のような手順で進められます。
1.乳がんの確定診断
2.精密検査・治療計画【術前(補助)薬物療法】
3.手術
4.病理検査【術後(補助)薬物療法】
5.術後の経過観察
6.再発・転移した場合は転移後の治療計画へ
術後薬物療法のほかにも②の術前薬物療法があり、いずれも手術の前後に行われることを理解しておきましょう。さらに【】とされているのは、標準的な治療ではなく「患者の病状や希望、背景などに応じた情報提供を行い、意思決定支援が必要な内容」であるとされているからです。
つまり、乳がんの基本は「手術によってがんを取りきる」ことであり、補助薬物療法は精密検査や術後の病理診断の結果に応じて行う位置づけであると理解しておきましょう。
※出典:がん情報サービス「乳がん治療」
術後補助薬物療法(術後化学薬物療法)
乳がん手術でがんを切除したとしても、視認できないほどの小さながんが残っており、同じ場所や異なる部位で少しずつ大きくなってしまう可能性があります。これを「再発」といい、がんが発見されたケースの多くでは目に見えない微小転移があるとされているため、手術後の再発は決して稀ではありません。
※関連記事:乳がんの「転移」の基礎知識。転移先の代表例と治療法とは
術後補助化学治療では抗がん剤などを用いて、術後にも体のどこかにあるがん細胞を根絶して再発を防ぐことが目的の治療です。「患者さんのための乳がん診療ガイドライン2019年版」によると、再発予防効果が確認されているのは以下の3種類とされています。
・抗がん薬(抗がん剤)
・ホルモン療法薬
・抗HER2医療薬(分子標的治療薬)
これらの薬の組み合わせや使用する薬の決定は、患者自身の性質、がんの性質によって異なります。その基準となる項目は様々で、例えば「閉経の有無」「がん細胞のHER2タンパクの有無」のほか、腫瘍の大きさやリンパ転移の状態、がん細胞の悪性度といった再発リスクの因子を鑑みて個々人に合わせた対応が必要になります。
また、抗がん剤による副作用の程度も患者さんによって大きな差異があり、日常生活に支障をきたす可能性もあります。そのため、抗がん剤の効果や放射線治療の実施なども含めた幅広い要素を総合的に判断し、メリット・デメリットを考慮したうえで術後補助化学療法の実施や内容を決めていくのが一般的です。
※出典:日本乳癌学会「患者さんのための乳がん診療ガイドライン2019年版」
術前補助薬物療法(術前化学薬物療法)
最後に、術前補助化学療法についても解説します。前述の通り、術前補助薬物療法は手術の前に行う薬物治療です。使用する薬は術後補助化学療法と同じですが、主に手術前にしこりを小さくして手術しやすくする、乳房温存手術の可能性を高める、といった目的で行われることが多いです。ほかにも、がんを取り除いてしまう前に薬の効果を確認できるため、一人ひとりの患者さんに適した治療計画を作成しやすいのも利点といえるでしょう。
乳がんと自分と向き合った補助療法を
乳がんと補助療法、術後補助薬物(化学)療法について解説しました。手術後も抗がん剤を受けなければならないケースもあるなど、一見すると生活や精神的に大きな負担になると感じられるかもしれませんが、あくまで手術を補助するための薬物療法という認識であり、一人ひとりの環境・状況に適した計画に基づいて行われます。乳がんの治療後も日常生活をより良く過ごすためには、補助療法を受けている時にも、何か気になる症状などがあれば担当医にすぐ相談するなどのコミュニケーションが大切です。