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がんサバイバーをめぐる国や社会の情勢|乳がん・子宮頸がんとの共生に必要なこととは?

がんの診断後、生きて生活するすべての人々のことを「がんサバイバー」といいます。がんサバイバーの人々は、がんの診断前とは異なる環境で生活を送る必要があるほか、精神的・身体的な負担が大きくなるなど、QOL(クオリティーオブライフ)を維持・向上するためには周囲や社会の支援が求められます。そこで今回は、特に女性に多い乳がん・子宮頸がんにおけるがんサバイバーの現状とがんと向き合いながら生きる方法について解説します。

がんサバイバーの定義と現状

国立研究開発法人国立がん研究センターによると、がんサバイバーとは「がんが治癒した人だけではなく、がんの診断時から死ぬまでの全ての段階にある人」と定義しています。サバイバー(survivor)には、生存者や生き残りという意味を持つことから、しばしば「がん治療が終わった人のみ」を指すと勘違いされるケースもありますが、ステージや治療経過などを問わず「がん体験者全員」を含むので注意してください。欧米でもがんサバイバーの意味合いはほぼ同義ですが、米国など一部の国ではがん体験者の介護者や家族も含むケースもあります。

※出典:国立研究開発法人国立がん研究センター「生活習慣とがんサバイバーの生活の質や予後との関連を調査

医療技術の進歩とがんサバイバー

近年、がんサバイバーが注目されている大きな理由ががん体験者の人数の増加です。その理由は複数ありますが、特に大きいとされているのが「医療技術の進歩」と考えられています。例えば、がんサバイバーと関連性が強い指標の1つが、がんと診断されてから5年後に生存している人の数と日本人全体の5年後に生存している人の比率を示す「5年相対生存率」です。以下のデータのように、かつては不治の病とされてきたがんも医療技術の進歩によって、男女ともに生存率が向上していることが明らかになっているのです。

■5年生存率 年次推移(全がん)

1993~1996 2009~2011
男性 48.9% 62%
女性 59% 66.9%

※出典:がん情報サービス「年次推移

続いて、女性の部位別でがんの5年相対生存率を確認してみましょう。

■女性の主要部位別、5年相対生存率

1993~1996 2009~2011
乳房 84.4% 92.3%
子宮体部 79.5% 81.3%
子宮 74.4% 78.7%
子宮頚部 73.4% 76.5%
直腸 63.9% 71.9%
結腸 66.1% 69.4%

※出典:がん情報サービス「年次推移

女性の罹患数が特に多い乳がんや子宮頚がんは、早期発見・早期治療ができれば他のがんと比べると生存率が高い傾向があることも覚えておきましょう。2022年時点では5年生存しているがんサバイバーは日本には341万人いるとされていますが、上記の指標から特に女性にとっては「がんサバイバー」の当事者になる可能性が高いと考えられます。

※出典:国立研究開発法人国立がん研究センター「生活習慣とがんサバイバーの生活の質や予後との関連を調査

※関連記事:知っていますか?乳がんは女性がかかる「がん」第1位。

がんサバイバーへの支援と「がんサバイバーシップ」

がんサバイバーが直面する課題・問題を周囲の人々や社会全体が協力して支え、乗り越えることを「がんサバイバーシップ」といいます。がんサバイバーシップに則った取り組みは官民問わず、医療機関などによって広く行われています。2023年10月11日、厚生労働省で実施された「がんとの共生のあり方に関する検討会」では、医療面のマネジメント、長期・晩期障害への支援、心理社会的適応の3つの論点でがんサバイバー支援がまとめられています。その具体的な項目は以下の通りです。

■サバイバー支援の論点1:医療面のマネジメント(アプローチ方法)
・予防、早期発見
・再発、異時性がんの監視
・二次がんの早期発見
・frailtyの予防  
・禁煙、節酒、運動促進

■サバイバー支援の論点2:長期・晩期障害への支援(対応すべき課題)
・倦怠感(運動)
・痛み
・不眠
・認知機能障害

■サバイバー支援の論点3:心理社会的適応(アプローチ方法)
・就労支援
・新しい環境(ニューノーマル)への適応
・不安抑うつ
※出典:厚生労働省「がんサバイバー支援

具体的な取り組み事例は様々ですが、今回は国立がん研究センターの機関である「サバイバーシップ研究所」の活動を例に挙げてみましょう。サバイバーシップ研究所はがんと共に生きる社会の実現を目的に掲げ、①がん治療に伴う副作用軽減・健康増進、②QOL向上、③精神心理的・社会問題の解決、④がんに関わるすべての人の価値観・意向に則したケアなどの研究を行っています。具体的なサポーティブケアは以下の通りです。

■がんサバイバーシップのサポーティブケア項目(例)
・がん治療による副作用の対策
・がんによる症状の緩和
・精神心理的ケア
・終末期問題の対応
・症状や治療に関する情報の提供
・併存疾患への対処
・家族・介護者への支援

高齢化や医療技術の進歩は今後も進行・発展すると考えられています。自分自身はもちろん、家族を含めた周囲の誰かが「がんサバイバー」の当事者になる可能性は決して低くはありません。いざというときにどのように幸せな生活をつくり、維持できるのか、前向きに検討できるよう、日々の生活のなかでがんに対する意識を少しでも高めてみてはいかがでしょうか。

※関連記事:乳がん治療と「副作用」の基礎知識。患者本人と家族の向き合い方

がん予防と早期発見に努めるのが最初の一歩

がんサバイバーの立場は人それぞれですが、定期的な検診によって早期発見・早期治療ができれば診断後の生活の変化はより小さくなるでしょう。また、喫煙や節酒、適度な運動といった規則正しい生活を送ることで、がんサバイバーになる可能性を低くすることもできます。周囲のがんサバイバーを支えることはもちろん、自身ががんにならないように日々の生活を改善することも必要です。

※関連記事:子宮頸がんの予防と早期発見の重要性。ワクチン接種や検診が大切な理由とは?